弁護士には自治が認められています。

自治が認められる理由は2つあります。

1つは、自治を認める必要性です。弁護士は在野で法律を扱う職業です。在野とは権力の外部にあるということです。

立法権は法律を作ります。行政権は法律を執行します。司法権は法律を終局的に解釈適用し、紛争を処理します。法の支配の下では、権力とは、法律を創り、適用し、解釈することに他なりません。

弁護士は、権力以外で唯一法律を解釈し、適用し、紛争を解決することにより報酬を得る職業です(弁護士法72条)。権力からすればいわばライバル業者にあたります。

例えばここ数ヶ月官邸前で原発再稼動に対する抗議行動が行われています。警察はこれに対し過剰な警備体制を採り、地下鉄の入り口をひとつに閉鎖し、歩道と車道の間に鉄柵を敷き詰め、参加者を間延びさせ、抗議行動を分断させています。

警察はこれを参加者の安全のための警備活動といいます。これに対し先日145名の弁護士が過剰警備は表現の自由に対する過度な制約であるとして抗議声明を出しました(官邸前の反原発活動警備に弁護士が申し入れ 動画)。

当該警備活動が本当に参加者の安全を守る為であるかどうかは分かりません。

抗議活動は現在の政府の判断に真っ向から異を唱えるものです。抗議活動の規模が拡大し、継続することが政権にとってプラスになることはありえません。今回の警備も抗議活動を消極的にさせる目的で行われている可能性もゼロではありません。そのようなときに、権力側の法律の解釈、適用について異を唱える弁護士は権力からすれば邪魔者です。

しかし権力は監視を欠けば必ず腐敗します。市民は権力の腐敗により必ず被害を被ります。権力を監視するための様々の機構は歴史の知恵です。弁護士に自治を与え基本的人権の担い手として権力を監視させることは、市民にとって有益です。だからこそ弁護士に自治を認め、権力の監督から解き放つ必要性があるのです。

弁護士に自治が認められるもう1つの理由は、この団体であれば自治を認めても大丈夫だという安心感です。
司法試験という国家試験を通過し、1年間の修習を経て、ある程度の法的知識、技術に関する最低限のハードルを超えた者のみが資格を有しているという点が安心感の理由としてまず挙げられます。

しかし安心感の理由はそれだけではありません。弁護士は、弁護士として仕事をし報酬を得る以上、必ず弁護士会に加入しなければなりません。いわゆる強制加入団体です。弁護士会は弁護士の不正行為を取り締まる懲戒権を有しています。場合によっては弁護士を除名することも可能です。

また、弁護士業界は若手の弁護士を育てることに熱心です。多くの弁護士が無償で若手を育てようと時間を割いています。弁護士会は、とりわけ政府・警察・検察・裁判所等の判断に対して、法の解釈、適用の観点から、独自の見解を頻繁に掲出していますし(会長声明・日弁連コメント)、各弁護士も様々な団体で、また個々人で、独立の立場から各種の社会問題について意見を述べています。これらの制度や活動が積み重なって、弁護士であれば自治を認めても大丈夫だという安心感を与えているものと思います。一言で言えば信頼です。

しかし、信頼はとても壊れやすいものです。

政治家に対する信頼は、各種の汚職事件により随分と低下してしまいました。公務員に対する信頼も同様です。マスメディアは、弁護士と同じく自治を認められていましたが、3.11以降の報道抑制等により、とりわけ若年層の信頼を少なからず失ったように思えます。

弁護士に対する信頼も、いつ崩壊するか分かりません。

試験制度が変わり、合格者数が増え、既に崩壊したと考える人もいるでしょう。実際に依頼した弁護士にひどい対応を受けたため、弁護士を信頼できなくなったと考える方もいるでしょう。報道で弁護士の不正を見てあきれ果てたという方もいると思います。

これらによる信頼の失墜も大きな問題ですが、私は、自治が認められ特権が認められる団体が、最も信頼を失う瞬間は、社会から、当該団体が既得権を守るために活動していると見られたときだと思います。

弁護士の自治は自由で民主的な生活にとって不可欠なものだと確信しています。

弁護士の自治を守り、自由で民主的な生活を守るためにも、弁護士が既得権を守ろうとしていると思われないことは極めて重要だと思います。

法律家養成や司法制度に関する議論は、弁護士が当事者となる議論です。弁護士が意見を述べる際には他の社会制度に関する議論よりも一層客観性が求められます。それは弁護士への信頼を守り、自治を育てるためにも不可欠の過程なはずです。

これからの法律家を考える会は、可能な限り客観性を守りながら、法曹養成や司法制度のあり方について議論し意見を述べる団体です。

ゆっくりと議論を深め、有意義な意見を発信していきたいと思います。

今後の活動にご期待下さい。

「これからの法律家」を考える会 事務局長  井桁 大介