1 私と法科大学院の密接な関わり
(1)2004年4月1日。私は,新しい法曹養成制度の第1期生として,大きな期待を胸に上智法科大学院に入学した。
予備校等を利用しながら孤独に旧司法試験を勉強していた自分にとって,法科大学院での授業は,アカデミックな匂いのするきわめて刺激的なものであった。判例の読み方,各法律の最先端の問題など。高校,大学と授業中居眠りばかりだった私が,本当に楽しみながら勉強できた,貴重な時間だった。
(2)その後一浪した後,私はなんとか司法試験に合格できた。
そして,人生の夏休みの司法修習を経て,2008年に弁護士になった。運良く職場も決まった。
(3)修習中から,旧試験組と新試験組と区別され,法曹養成制度改革に反対した法曹から冷たい仕打ちを受けることもあった。そして,弁護士になった後,少なからぬ弁護士が法科大学院を含む法曹養成制度改革に反対なことを知らされた。
彼らは,私に対し,「法曹人口年間3000人増員と法科大学院設立がセットにして論じられてきた。少なからぬ弁護士が反対したにもかかわらず,日弁連執行部が押し切り決定された」と教えてくれた。そして,彼らは,①年間3000人増はあり得ない,②法科大学院は廃止,③裁判員裁判制度は撤廃などと主張した。
(4)私は,自分が法曹養成制度の下で弁護士になった者であるため,彼らの論理を素直に受け取ることができなかった。法科大学院の授業は本当に素晴らしかったからでもある。法科大学院に出会わなかったら,私は今弁護士をしていないと思う。
2 年間2000人合格の帰結
そうは言っても,目の前にある現実は厳しい。法曹という職業を目指す者は年々少なくなってきた。
日弁連執行部も,ついに年間3000人増を撤回。法科大学院制度のみが残っている現状である。
もともと法科大学院構想は,近い将来合格者数が年間3000人になることを念頭に,司法研修所のキャパシティを補完するものとして作られたものである。年間3000人と法科大学院制度はセットであった。このもともとの構想に鑑みれば,年間3000人増が撤回されれば法科大学院もいらなくなるはずである。
しかも,現在の日弁連が妥当と考える合格者数が年間1500人であることに鑑みれば,現在の司法研修所のキャパシティで足りるのである。
3 法科大学院(司法試験受験の前提として法科大学院修了を要件とすること)における,現時点のデメリットとメリット
デメリットは,①法曹を目指す者にとって,法曹資格を得るまでに多くのお金と時間がかかる割には得られるものが少ない,②大学の研究者にとって,授業準備等で多大な負担がかかる割には得られるものが少ない,くらいだろうか。他方,メリットは,①法曹を目指す者にとって,初学者のうちから法律学の最先端に接する機会を得ることができる,②実務家教員枠があるため,食い扶ちが増える,くらいだろうか。「実務に出るまでに専門的な能力が得られること」は,直接には選択試験科目に当該法律を入れるか否かの問題であり,法科大学院とは関係がない。また,「予備校的な答案を回避できること」も,昨今の法科大学院の教育が受験勉強に特化しがちであることに鑑みると,メリットとは言い難いであろう。
以上に鑑みれば,現状の法科大学院制度を存続させるメリットはあまりなく,デメリットは非常に大きい。
4 法科大学院制度の理念と現実の乖離
法科大学院制度の理念は法曹として多様な人材の育成・確保である。
しかし,現在の法科大学院の現場は,生き残ること=合格者を増やすことに必死で,授業内容は受験勉強に特化しがちであると伝え聞く。さらに,そもそも法科大学院修了が司法試験の受験要件であり,合格者数が各法科大学院の価値を決める仕組みになっているため,現在の状況が今後改善されることはありえない。仮に法科大学院修了が司法試験の受験要件でありながら学生が受験勉強に力を入れなくても良いという事態は法科大学院の入学者数を絞ることでしか実現できないが,そのような状況が多様な人材の育成・確保に資するかは甚だ疑問である。
私は,法科大学院が現在のまま受験予備校としての性格を持ち続ける以上,多様な人材の育成・確保は困難であり,法科大学院の存在意義はないと言わざるを得ないと考える。この意見には,法科大学院の当初の理念に賛同し,設立当初は尽力したが,その後現場と理念のギャップに苦しみ現場を離れて行った多くの大学教員も(現在在学中の学生らの処遇を別にすれば)賛同してくれるはずである。
本当に法曹として多様な人材を確保したいならば,多くの人が受験可能な制度(昔の制度)に改めざるを得ないだろう。そうであれば,法科大学院修了を司法試験の受験要件とすることはありえない。
5 司法試験の受験と切り離された法科大学院の生き残る途
法科大学院を一つの回り道と割り切った上,学生に法科大学院在学中大学側が様々な社会経験(デモへの参加など)を積ませ,彼らの就職活動や実務に出た後の活動の際に有利に働く下地を作ることしかないのではなかろうか。法科大学院制度を限りなく縮小させ,法科大学院修了に希少価値を付与することができるならば,法科大学院も生き残っていくことが可能となろうが,当分の間は実現困難であろう。
それまでに法科大学院制度をダラダラ続けるのが,はたして良いことなのか。法科大学院(司法試験受験の前提として法科大学院修了を要件とすること)が存続する限り,ますます法曹志願者は減少するだろう。私には,弁護士会が自分の首を自分で絞めているとしか思えない。
弁護士 花澤 俊之